近年、日本企業でシステム障害が相次いでいます。
2025年に入ってからは、アサヒグループやアスクルなどの大手企業がランサムウェア攻撃を受け、業務停止や配送遅延といった深刻な影響が出ました。
クラウド活用が当たり前となった今、「AWSを使っていれば安全」という時代は終わっています。
では、AWSを利用する企業はどのように設計すれば、セキュリティ強度を最大化できるのでしょうか。
ランサムウェア被害の本質:技術よりも「構成」と「運用」
アサヒやアスクルの事例で共通しているのは、攻撃そのものの高度さよりも、社内ネットワークやサーバ構成の脆弱性を突かれた点です。
クラウドでも同じで、AWSそのものが攻撃されることは稀ですが、**「利用者側の設定ミス」や「権限管理の甘さ」**が被害を招く原因となります。
AWSを使う場合も、セキュリティを最大化するには「どこまでAWSを組み込むか」が鍵です。
AWSの責任共有モデルを理解する
AWSではセキュリティを「共有責任」としています。
- AWS側の責任範囲:データセンター、ネットワーク、物理設備などのセキュリティ
- 利用者側の責任範囲:OS、アプリ、アクセス権限、データ保護など
つまり、AWSは“安全な箱”を提供するだけで、その中での運用は利用者に委ねられています。
企業側での「構築」「監視」「運用」の徹底が、実際の防御力を決めるのです。
レイヤー別に見る:AWSセキュリティ強化の最適構成
アカウント・認証管理
AWSではまず「人」の管理から始まります。
- IAMで最小権限設計(rootアカウントは使用禁止)
- すべてのユーザーにMFA(二要素認証)を設定
- Organizationsを導入して複数アカウントを一元統制
- 監査専用アカウントを分離し、操作ログを改ざん不可で保存
これにより、万が一の認証情報漏えいがあっても被害を局所化できます。
ネットワーク・通信防御
- VPC内でパブリック/プライベートを明確に分離
- 不要なポート・IPを閉鎖(Security Group最小化)
- WAF(Web Application Firewall)で不正アクセス遮断
- AWS ShieldでDDoS攻撃を自動防御
- CloudFront経由でトラフィックを分散・監視
**「直接インターネットにさらさない構成」**が鉄則です。
データ防御とバックアップ
ランサムウェア攻撃では「データを暗号化されて人質に取られる」ことが最大のリスク。
AWSではこれを多層的に守ります。
- S3やRDSをKMSで暗号化(静止データ保護)
- 通信をTLS化(転送データ保護)
- AWS Backupで別アカウント・別リージョンに世代バックアップ
- Object Lock(WORM)でバックアップを削除不能に設定
これにより、攻撃後もクリーンなデータから即時復旧が可能です。
監視・検知の自動化
人間の監視には限界があります。AWSの監視ツールを組み合わせることで異常検知を自動化します。
- CloudTrailで全操作をログ化
- GuardDutyで不審なアクセスをAI検知
- Security Hubで全体のセキュリティスコアを可視化
- CloudWatchで異常なリソース使用をリアルタイム通知
これらをSlackやTeamsと連携すれば、**社内SOC(セキュリティオペレーションセンター)**に近い体制が構築できます。
運用・人的対策
技術だけではなく、「人の運用」もセキュリティの一部です。
- OS・アプリの定期パッチ適用
- ゼロトラスト構成(VPNよりIDベースアクセスへ移行)
- IAM Access Analyzerで権限の過剰設定を検出
- 定期的なペネトレーションテスト(侵入シミュレーション)
- インシデント対応手順書(Runbook)を整備
実際、被害を最小化できた企業は「技術」よりも「訓練」が整っていたケースが多いです。
ランサムウェア対策の核心:攻撃を「受けても」止まらない構成
AWSでは「攻撃を防ぐ」だけでなく、「攻撃を受けてもシステムが止まらない」構成を取るのが理想です。
対策項目 | 内容 | 効果 |
---|---|---|
別アカウント・別リージョンバックアップ | AWS Backup + Object Lock | 復旧性確保 |
CloudTrailログの改ざん防止 | S3 WORM設定 | 事後調査の信頼性向上 |
IAMの棚卸し | 不要権限削除・MFA強制 | 権限悪用リスク減 |
Security Hub監査 | 自動スコアリング | 継続的改善 |
まとめ:AWSセキュリティは「導入」ではなく「構築+運用」
クラウド化によって物理的なセキュリティリスクは減りましたが、
設定・権限・監視を怠ればオンプレ時代より危険です。
アサヒやアスクルのような事例は、
「システムを止めない」ことが経営リスク回避の核心であることを示しています。
AWSを使うなら、
👉 設計段階からセキュリティを組み込み、
👉 運用フェーズで継続的に監査・訓練する。
これが、AWS時代の企業防衛のスタンダードです。