2025年9月、中国籍の女性の遺族が、大阪府吹田市の国立循環器病研究センターを相手取り大阪地方裁判所へ提訴しました。
女性が受けた医療に対して、通常の3倍に相当する675万円の請求を受けたことが争点となっています。
争点 ― 「3倍請求」の正当性
女性側は、同じ状況の無保険の日本人患者なら約225万円で済むはずで、675万円の請求は国籍差別に基づく不当なものだと主張しています。これに対し病院側は、
- 診療報酬点数に基づき算定したものであり、国籍で差をつけたものではない
- 無保険患者には点数単価を20〜30円と設定する例が全国的にある。(病院によっては無保険でも10円で設定する場合もある模様)
- 通訳体制や不払いリスクといった追加コストを反映している
と反論しています。
裁判では、
- 「225万円」を基準とする患者側の根拠の妥当性
- 「675万円」という算定方式の合理性 が審理の焦点となる見込みです。
過去の類似事例
今回のように「差別的請求」を直接争点にした訴訟は珍しいですが、外国人患者の医療費をめぐるトラブルは過去にも多く報じられています。
高額未払いの事例
- 東京都内の病院(2022年)では、在日外国人患者の未払いにより約2,230万円の損失が発生。
- 観光地や沖縄では、旅行保険未加入の訪日客が救急手術などで数百万円規模の請求を受け、未払い・分割対応が問題化しました。
統計データ
厚労省の調査によると、外国人患者を受け入れた医療機関のうち約17〜18%で未収金が発生。1件あたりの未収金は平均数十万円ですが、100万円超〜数百万円級の事例も確認されています。
病院側の運用
- 公的保険が適用されない短期滞在者に対しては、診療点数1点を20〜30円で算定する運用例が存在。
- 不払いリスクや通訳・事務コストを理由に、自由診療として高めに設定する傾向があります。
行政の対応
- 沖縄県などでは、救急医療の費用を自治体が補助する制度が整備。
- 政府は訪日外国人に旅行保険加入を促す施策を進めています。
今回の裁判の意義
これまで多くの事例は病院と患者・遺族との交渉段階で解決することが多く、訴訟に至るケースは稀でした。今回の提訴は、
- 「国籍を理由にした差別的請求か」
- 「自由診療における価格設定の合理性か」
という重要な論点を法的に検証する初めての事例のひとつになる可能性があります。
まとめ
外国人患者の医療費問題は、
- 未払いリスク
- 高額請求の妥当性
- 国籍による不当差別の有無
といった複雑な課題を抱えています。今回の裁判の行方は、今後の医療現場の運用や政策にも大きな影響を与えるかもしれません。