大学受験向けの予備校「ニチガク」を運営する株式会社日本学力振興会が、財務情勢の悪化を背景に自己破産申請に向けて手続きを進めています。
本記事では、この破産問題を考察し、関係者にもたらす影響を総括的に読み解きます。
ニチガク破産の背景
ニチガクは、40年以上にわたり大学受験生向けの教育を提供してきた大手予備校です。
しかし、少子化による入塾者の減少や、日本全国でのコロナウイルスによる学生数の下降、学生の学費未払いなどが、結果的に経営に大きな負担をかけました。
これにより、予備校の教室閉鎖と破産に至ったようです。
少子化という社会問題が土台にある以上、このような経営難に陥る塾は他にもありそうです。お子様を通わせている塾の財務状況は、よく確認しておくことをおすすめします。
破産直前の契約は詐欺罪にあたるか?
まず、破産直前に契約してお金を受領していた場合、詐欺罪に該当するのでしょうか?
結論:経営陣が善意(破産することを知っていた)か悪意(破産することを知らなかった)によって、変わります。今後のニチガクの見解に要注目です。
詐欺罪の成立要件
刑法第246条では、「人を欺いて財物を交付させる行為」が詐欺罪に該当します。ニチガクが破産直前まで新規契約を受け付けていた場合、以下の状況に該当すると詐欺罪が成立する可能性があります:
- 破産を予定していたか
破産の可能性を経営陣が認識していたにもかかわらず、支払い能力があるかのように装って契約を続けていた場合、詐欺罪が適用される可能性があります。 - 利用者の意図的な誤認
「契約したサービスを確実に提供する」という誤認を生じさせて、利用者から支払いを受けた場合も該当する可能性があります。こうしたケースは、過去の判例でも詐欺罪と認定された例があります。
詐欺破産罪の可能性はあるか?
では、詐欺破産罪に該当するのでしょうか?
破産法第265条では、「債権者の権利を妨害する目的で財産を隠匿・譲渡したり、債務を負担させる行為」が詐欺破産罪に該当します。
ニチガクが破産を決定する以前から、契約を通じて財産を集め、その後破産手続きによって債権者への返済を逃れようとした場合、この罪が成立する可能性があります。
例えば、破産手続きの直前に不当に収益を上げた場合や、破産財団の分配を阻害する行為があれば、詐欺破産罪に問われることがあります。
こちらも今後の見解を要注目です。
消費者保護と景品表示法違反との関係は?
詐欺だけでなく、破産直前に契約を受け付ける行為は、景品表示法違反にも該当する可能性があります。
この法律では、消費者を誤認させる不当表示が禁止されています。
たとえば、「十分なサービス提供が可能」という表示を続けて契約を誘導した場合、景品表示法違反となり得ます。
ニチガク破産後の返金の可能性について
破産手続きにおいて、事前に支払ったお金が返金されるかどうかは、以下の条件や手続きに依存します。
破産手続きにおける債権者の順位
破産手続きでは、債権者に返済が行われる際の優先順位があります。主な順序は以下の通りです:
- 担保権者(抵当権などを持つ者)が最優先。
- 共益債権(破産手続きの費用や税金など)。
- 一般債権者(契約者や顧客など)が最後に配分。
学生の方々は、一般債権者に分類される可能性が高いため、資産が不足している場合には全額が返金されない可能性もあります。
優先返金が適用されるケース
契約時にサービスが提供されていない場合、前払金は「未履行債務」に該当することがあります。この場合、消費者契約法や前払式特定取引法に基づき、優先的に返金が行われることがあるため、以下の手順を検討してください:
- 破産管財人に債権届出を行う
破産手続き開始後、破産管財人が債権者に通知を行います。契約時の支払いに関する情報をもとに、所定の期間内に債権届出を提出することが必要です。 - 消費生活センターへの相談
消費者保護を専門とする機関(消費生活センターなど)に相談することで、返金の可能性や手続きを詳しく案内してもらえます。
集団訴訟の可能性
多くの契約者が返金を求めて集団訴訟を起こす場合、裁判所が特定の救済措置を設けることがあります。
ただし、この場合でもニチガクの資産状況により、全額返金は保証されません。
詐欺罪が認定された場合の対応
仮に経営陣の行為が詐欺と認定された場合、刑事裁判を経て損害賠償を請求する権利が発生する可能性があります。
刑事裁判での有罪判決後、民事裁判で返金請求を行うことが考えられます。
ただし、被告側に返済能力がなければ、実際の回収は困難です。
アクションプラン
※まずは契約書を読み込んでみて、ご自身が返金の対象かをご確認ください。
- 破産手続き開始通知を確認
破産管財人からの通知を待ち、債権届出の期限内に必要な情報を提供します。
(契約書の写しや領収証、銀行の振込明細などをあらかじめ準備しておくといいです。) - 消費生活センターまたは弁護士に相談
手続きの進め方や返金の可能性について具体的なアドバイスを受けられます。 - 情報収集
ニチガクの破産手続きに関する最新情報を確認し、適切な行動を取ります。
学生への影響
1. 学生とその家庭への影響
- 学習機会の喪失
学生は予備校のサービスを受けられなくなり、大学受験に向けた学習計画が大きく喪失します。特に、中途で放棄された教材や課題は大きな情報ロスにつながります。 - 前払い金の未返還問題
既に支払われた学費や教材費が返金されない可能性があり、これは学生や家庭にとって重大な経済的負担となります。 - 代替サービスの緊急確保
他の予備校やオンライン教育の利用を検討せざるを得なくなり、追加費用が発生する可能性が高いです。
他の関係者への影響
1. 教職員
- 雇用喪失
ニチガクで働いていた教職員は職を失うことになり、新たな雇用先を探す必要があります。特に、教育業界全体が縮小傾向にある中で再就職は困難を伴うかもしれません。 - 給与未払いの懸念
破産手続きが進行する中で、未払いの給与や退職金が支払われない可能性があります。
2. 取引先企業
- 未回収債権の発生
教材提供会社やビル管理会社など、ニチガクと取引していた企業は未回収債権を抱えるリスクがあります。 - 収益減少
長期的な取引先を失うことで、収益が減少する可能性があります。
今後の展望と課題
ニチガクの破産は、教育業界全体にとって重要な教訓を残しています。
少子化やパンデミックといった外部要因に対応し、柔軟な経営戦略を立てる必要性が浮き彫りになっています。
1. 消費者視点での選択基準の変化
- 透明性の重視
消費者は、教育サービスの財務状況や運営方針に関する透明性を求める傾向が強まると考えられます。 - 代替手段の確保
オンライン教育や地域密着型の小規模な教育機関が注目される可能性があります。
2. 教育機関の経営戦略
- デジタル化の推進
従来の教室型教育に加え、オンライン教育を併用することでリスク分散を図る必要があります。 - 財務基盤の強化
安定した経営を維持するためには、収益構造の見直しやコスト削減が求められます。
まとめ
ニチガクの破産は、教育業界全体に大きな波紋を広げる出来事となっています。
学生や家庭への影響を最小限に抑えるためには、迅速な対応が必要です。
教育機関は、時代の変化に対応し、信頼性と柔軟性を備えたサービスを提供することで、こうしたリスクに備えることが求められます。